奇蹟がくれた数式

2015年製作/108分/G/イギリス
原題:The Man Who Knew Infinity
配給:KADOKAWA

本日ご紹介するのは、マシュー・ブラウン監督の『奇蹟がくれた数式』です。

数学についてはまるっきりわからないのですが、すごく良い映画です。

Cast

Cast overview, first billed only:
Jeremy Irons Jeremy Irons  ジェレミー・アイアンズ G.H. Hardy
Dev Patel Dev Patel デブ・パテル S. Ramanujan
Stephen Fry Stephen Fry スティーブン・フライ Sir Francis Spring
Devika Bhise Devika Bhise デヴィカ・ビセ Janaki
Toby Jones Toby Jones トビー・ジョーンズ John Edensor Littlewood
物語:
遥か遠くの英植民地インドから、イギリスのケンブリッジ大学トリニティ・カレッジで教授を務めるG・H・ハーディ(ジェレミー・アイアンズ)のもとに1通の手紙が届く。食事も忘れて手紙に没頭したハーディは、差出人のラマヌジャン(デヴ・パテル)を大学に招くと決める。そこには著名な数学者のハーディも驚く“発見”が記されていたのだ。 時は1914年。独学で学んできたラマヌジャンは、自分の研究を発表できる初めてのチャンスに胸を躍らせる。異教の地を嫌がる母には反対されるが、結婚したばかりの妻(デヴィカ・ビセ)は「私を呼び寄せるなら」と許してくれた。

 カレッジに足を踏み入れた瞬間、崇高な空気に息をのむラマヌジャンを、ハーディの友人のリトルウッド教授(トビー・ジョーンズ)が温かく迎えてくれる。しかし、当のハーディは人付き合いが苦手で、ほとんど目も合わさず握手もせず、短い挨拶だけで消えてしまう。一方、他の教授たちは、学歴のないラマヌジャンに批判的だった。ハーディが称える素晴らしい“発見”も、論理的な“証明”がなければ、魔術や絵空事にすぎないのだ。(http://kiseki-sushiki.jp/ 奇蹟がくれた数式 公式サイト)
インドの描写がすごく美しくて、思わずインドへ飛ばなきゃ・・・あの美しい布に触れたい、感じたい!と強く願いました。インドの映像に心くすぐられました。これは、主人公の心情に心を合わせ易くさせる魔法かもしれませんね。
主人公、ラマヌジャンを演じるのは、アカデミー賞®作品賞を受賞した『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)、ガース・デイヴィス監督作『Lion』(2016)のデブ・パテル。『奇蹟がくれた数式』のデブ・パテルは『Lion』よりも『スラムドッグ$ミリオネア』のイメージが強いです。どちらの映画もインド育ちを背景にもつ役柄だからかもしれません。
イギリスの植民地時代のインドが描かれているのもあり、アルフォンソ・キュアロン監督の『リトル・プリンセス(小公女セーラ)』(1995)を思い出しました。この映画も、インドが夢の国のように美しく描かれているんです。幼少期に鑑賞し、この映画の虜になったのを覚えています。
話が脱線しましたが、ラマヌジャンは、デヴィカ・ビセ演じるジャナキと結婚しています。1910年代、女性は教育を受ける権利がなく、イギリスにいる夫、ラマヌジャンへの手紙も、その返事も、人に読み書きしてもらう必要があり、口に出して言葉にして思いを綴ってもらう姿は、とてもとても切ないのです。そして、ラマヌジャンが渡英しジャナキと2人で暮らすラマヌジャンの母は自己中心的で、ジャナキに対して慎まないものだから、ここの描写は心が痛くなります。
一方、イギリスケンブリッジ大学は格式が高く、ラマヌジャンには孤独を感じる全く異なる世界。イギリス人のプライドの高さが、このイギリスケンブリッジ大学というシチュエーションで分かりやすく描かれています。ジェレミー・アイアンズ演じるハーディはトリニティ・カレッジで教授を務め、数学と結婚しているような人間。ハーディは彼の人生で人のために何かをしたことが無いようなタイプ。仲の良い友人、トビー・ジョーンズ演じるリトルウッドは、劇中で「ハーディーの想像の産物にすぎない。ミスをした時、責任転嫁するために」と形容されるほど、ハーディーはケンブリッジ大学の数学の天才たちの中でも数学の変人なのでしょう。このリトルウッドは、ハーディーに欠落している<善意>の象徴のように感じました。(100%偶然なんですが、最近鑑賞する映画、ほぼ毎回リトルウッドを演じているトビー・ジョーンズが出演しています。大体悪役。)
こちらの映画、難点が一つあり、全然年数が出ないので、今何年で、何年経ってるのか掴みづらいです。一体ジャナキは何通ほど手紙を買いているのか、2人は何年会えていないのか、ハーディーはどれほどの時間をかけてラマヌジャンの数式を解析、証明、しているのか・・・。
数学者たちにとっては、年数や年代はとるに足らない記号の羅列なのでしょうか・・・?第一次世界大戦で察しろということなのはなんとなく、分かるのですが・・・。
この映画の中では、ハーディー達ケンブリッジ大学の教授群は数学の天才、証明することが全てである。一方、ラマヌジャンは数学の神の域に存在し、ニュートンと並ぶ。彼にとって数式は全てを形作るもので、現象には数式がある。この違いは、わたしにはぼんやりとしかわからなかったけれど、ハーディのスピーチで、物凄くしっくり納得し、震えたので、是非ともこの感動を味わっていただきたいです。
実話を基にした映画、『奇蹟がくれた数式』、「数学を愛する人々が羨ましくなる映画」です。

2人のローマ教皇

2019年製作/125分/G/イギリス・イタリア・アルゼンチン・アメリカ合作
原題:The Two Popes
配給:Netflix

(英語字幕をつけて鑑賞するものの、ラテン語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語・・・云々で頭も耳も混乱。つまりは、英語字幕でわからない単語が多くて、解りたいシーンばかりなので、もう一度日本語字幕でも鑑賞。『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズが好きな父も好むだろうと、二人で鑑賞。うーん満足!)

あらすじ:

「シティ・オブ・ゴッド」「ナイロビの蜂」のフェルナンド・メイレレス監督がメガホンをとり、2012年に当時のローマ教皇だったベネディクト16世と、翌年に教皇の座を受け継ぐことになるホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿の間で行われた対話を描いたNetflixオリジナル映画。

カトリック教会の方針に不満を抱くベルゴリオ枢機卿は、ベネディクト教皇に辞任を申し入れる。しかし、スキャンダルに直面して信頼を失っていたベネディクト教皇はそれを受け入れず、ベルゴリオをローマに呼び寄せる。考えのまったく異なる2人だったが、世界に10億人以上の信徒を擁するカトリック教会の未来のため、対話によって理解しあっていく。ベネディクト16世役にアンソニー・ホプキンス、ベルゴリオ役に「天才作家の妻 40年目の真実」のジョナサン・プライス。脚本は「博士と彼女のセオリー」「ボヘミアン・ラプソディ」のアンソニー・マッカーテン。Netflixで2019年12月20日から配信。日本では配信に先立つ12月13日から、一部劇場にて公開。(https://eiga.com/movie/91725/ 映画.com)

Cast

Anthony Hopkins Anthony Hopkins アンソニー・ホプキンス Cardinal Ratzinger / Pope Benedict
Jonathan Pryce Jonathan Pryce ジョナサン・プライス Cardinal Jorge Bergoglio / Pope Francis
Juan Minujín Juan Minujín フアン・ミナヒン Younger Jorge Bergoglio
Luis Gnecco Luis Gnecco ルイス・ニェッコ Cardinal Hummes

言わずもがな・・・ジョナサン・デミ監督の『羊たちの沈黙』”The Silence of the Lambs“(1991)でアカデミー主演男優賞を受賞。続編「ハンニバル」(01)と「レッド・ドラゴン」(03)でもあの役、”ハンニバル・レクター”を演じた、アンソニー・ホプキンス と、ブロードウェイで2度もトニー賞を受賞しているイギリス出身の ジョナサン・プライス 主演。アンソニー・ホプキンスもジョナサン・プライスもイギリス出身という共通点。ちなみに フェルナンド・メイレレス 監督はブラジル/サンパウロ出身です。

劇中では、アンソニー・ホプキンス演じるベネディクト16世は、ドイツ出身で、ベルゴリオ役のジョナサン・プライスはアルゼンチン出身です。

『2人のローマ教皇』は事実を元にしている作品で、ふたりがそれぞれの人生の中で巻き込まれた歴史の暗部も丁寧に描き出され、歴史や宗教に疎いわたしでも、映画の中でふたりの全く異なる感性を一つ一つ丁寧に追うことが出来ました。

何より声を大にして言いたいのは、お二人の芝居の素晴らしさ。哲学的な論争の中での言い争い、からの間(ま)。このお二人だからこそ、成り立つシーンの奥行。それでいて鑑賞者であるわたしたちを置いてけぼりにせず、あらゆる方向の考え方をもつ一人一人、人種や、性別、生まれ育った国々の異なる個人を、言わば信仰心と言う共通点だけをもつ地球上の人間なのだと言うことを、解きほぐしてくれる。

どちらの役も、実に魅力的で、人間らしい。アンソニー・ホプキンス演じるベネディクト16世・Ratzinger(ラツィンガー) は、ドイツ人らしいと言うのか、真面目で「教義の番犬」と呼ばれていて、ビートルズは知っていても”Eleanor Rigby“(エレノア・リグビー)や”Yellow Submarine”(イエロー・サブマリーン)は知らない。おそらくベネディクト16世が誇らしげに教えてくれる彼のアルバムを収録したビートルズが録音したのと同じスタジオ”Abbey Road Studio”は Abbey(女子修道院 “the Abbey”)と勘違いして「まさか、不謹慎だ」とのたまう。なんて偏りのある知識・・・!このシーンで、彼が「音楽の道に進もうと考えたこともあったが、完璧に弾ける自信がなかった」の一言からも、彼の現職、ローマ教皇に対する彼の考え方が伝わってきます。楽譜をローマ教皇の伝統や考え方になぞらえると、完璧主義者そのものであり、変化を求めない(=アレンジをしない)考え方にも納得します。

Jorge Bergoglio(ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ)がピアノを弾くベネディクト16世・Ratzinger(ラツィンガー) に”Eleanor Rigby“(エレノア・リグビー)について訪ね、ベネディクト16世・Ratzinger(ラツィンガー) にはよく伝わっていない、”Eleanor Rigby“(エレノア・リグビー)の歌詞には、誰も説教を聞かないとても孤独な”Father McKenzie”(マッキンジー神父)が 登場する、とても挑戦的でありふたりの距離感や関係性が大きく変化する印象的なシーン。正直に言うと、この役 Ratzinger の考え方は、わたし自身の考え方にとてもよくあてはまるので、もっとフランクにならねば・・・と心が揺れました。

冒頭、ジョナサン・プライス演じるJorge Bergoglio(ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ) に対して挨拶もしないベネディクト16世・Ratzinger(ラツィンガー) が、二人で一緒に過ごす2日間で考え方が変わっていく様があまりに見事で、極端にレベルの違う、人間界の最も神に近いと想像できる人間ふたりの会話に、なんども頷きながら、心を打たれました。そして、最も神に近いふたりだからこそ、人間らしい自我の強さや哀しみや怒りに満ちた時間もある。恐らく、だからこそ神に導かれる旅路があったのだろう。

ジョナサン・プライス演じるJorge Bergoglio の、大切にする「自分らしくいる」ことを貫く姿勢は、あらゆる人たちを惹きつける。初めて歩く場所も自分の庭のよう、初めて会った庭師も心を開きハーブを贈る。バチカンで教皇の衛兵として機械のように無機質な表情で案内してくれるスイス人衛兵はいつの間にかニヤリと笑っている。自分で航空券を予約し、与えられた司教館には住まず質素なアパートに住み、車の送迎では後部座席ではなく助手席を好み、バスに乗り、バーへ行き村人とサッカーで盛り上がる。

ふたりが別の時間を過ごす時に、ふたりの心が寄り添い始める。

ある日突然「神の声」が聞こえたら、わたしは聖職者になるのだろうか・・・?なんて言葉が頭をよぎり、神様が存在しそうな斜め上へ目線を上げる。そして苦笑い。うん。心配ないな、わたし。

細かい、細かいところまで、ぜひご堪能いただければ幸いです。

『2人のローマ教皇』

また来週、映画の話をしましょうね。

オノユリ

パプリカ

2006年製作/90分/日本
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

監督:今敏(こんさとし)

原作:筒井康隆(つついやすたか)『時をかける少女』

企画:丸山正雄(まるやままさお)『この世界の片隅に』『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』『サマーウォーズ』『時をかける少女(2006)』

声優

パプリカ/千葉敦子 林原めぐみ『エヴァンゲリオン』綾波レイ

乾精次郎 江守徹

島寅太朗 堀勝之祐

時田浩作 古谷徹

粉川利美 大塚明夫

小山内守雄 山寺宏一

本日ご紹介するのは、2006年の日本のアニメーション映画作品『パプリカ』です。SNSでちらりと伝説の作品・・・と目にしてから気になっていたら巡り合いましたので。

あらすじ:

パプリカ/千葉敦子は、時田浩作の発明した夢を共有する装置DCミニを使用するサイコセラピスト。ある日、そのDCミニが研究所から盗まれてしまい、それを悪用して他人の夢に強制介入し、悪夢を見せ精神を崩壊させる事件が発生するようになる。敦子達は犯人の正体・目的、そして終わり無き悪夢から抜け出す方法を探る。

第63回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門へ正式出品される。また、第19回東京国際映画祭のanimecs TIFF 2006のオープニング上映作品ともなっている。

人間の気持ち悪いと思うボーダーラインが研究し尽されているのかなと思うほど、ことごとく、ボーダーラインのぎりぎりを「微か」にこえてきます。そう、微かに。登場する人物、好きなものだけを純粋に研究し続けている天才であり、無責任で子供と表現される時田浩作は、ゴミ箱のように食べ物を貪る、巨漢。その巨漢の有様が、エレベーターに詰まって降りられないほどの巨漢。人間の顔が肉に埋まっているかのように生々しく、目だけが純粋に輝いている巨漢で、登場した瞬間からぞくりとする。

また、誰が主人公なのかまだ良く判別がつかない中で登場する 島寅太郎 博士。後ろ姿は『攻殻機動隊』の荒巻大輔課長によく似ていて、なんだか馴染みのある雰囲気にほっとしたのも束の間、正面から対峙すると、眼鏡の奥の目のぎょろぎょろ感が今にも飛び出してきて噛み付いてきそうなほど。なになに、油断大敵でぞわぞわする。

冒頭に登場したパプリカと名乗る元気で人懐っこそうな女性が主人公かと思われたけれど、千葉敦子が登場すると、雰囲気が大人びて、少しキツそうで、全く異なる色調の女性で、話し方も異なるのだけれど・・・パプリカと同じ声で??? そして、千葉敦子の知的でクールな雰囲気、アニメーションとは言え、はっきり言って美人、爽快感のあるようなシュッとしたこの美人は、唯一の清涼飲料水のように感じる。

江守徹(えもりとおる)氏の演じる乾 精次郎(いぬい せいじろう)精神医療総合研究所の理事長、要するにこれらの登場人物の中で一番のお偉いさん、が登場すると、その色の白さや風貌にぞっとする。『X-MEN』シリーズのプロフェッサーXから安心感を抜いて病気がちにして、色白にした感じ。この理事長の周りには癒しのためなのか、やたらと植物が豊富にあり、その植物が生き生きとしていて、そこだけジブリの世界なのかとも思えてくる。そして、この理事長が言ってる事が割と現実的でわかりやすくて、ごもっともなのだ。

要するに、この物語、冒頭からぶっちぎりで訳がわからないのだ。頭をよぎった映画作品は、韓国映画 ジュンサング・キム監督の『ルシッドドリーム』、ジェニファーロペス 主演 ターセム・シン監督の『ザ・セル(2000)』、クリストファー・ノーラン監督・脚本・製作『インセプション(2010)』。どれも夢の中で解決を探る物語だが、今回紹介している『パプリカ』の恐ろしい点は、アニメーションというところにもあるかもしれない。実写映画なら、夢と現実の違いが分かりやすいが、すでに現実ではないアニメーションの中で現実と夢の区別を視聴者に委ねられても、答え難い。まず、大前提として、実写とは異なる世界の中の話なのだ。

物語はアニメーションの中の現実の世界と夢の世界と、人の夢と自分の夢が乱れて交錯し、とても複雑だが、メインの登場人物が少ない事に救われて物語を追いやすい。

そして、人の脳とはとても要領が良くて、冒頭で「気持ち悪い」と感じたものが気づけば肌に馴染んで、友人のような気さえしてくる。そして、「気持ち悪い」の定義がおそらく自分の中で変化している事にも気づきます。おそるべし『パプリカ』人間の思考能力も1時間半の間にコントロールしている・・・。

それにしても、『パプリカ』、14年前のこの作品、観ていただけると、もう目にしなくなった日本の家電、街角の電話、など列を成して出てきます。この作品、きっとどんどんどんどん観るものを虜にしてあの玉座に座らせにいきますね。

「おかけになった子供電話相談室は、ヨモツヒラサカ故障の影響で、午前7時63分から夢見る大渋滞です」

今の所、わたしの思考は夢見る大渋滞です。