コエボンラジオをお聴きの皆さん、こんばんは。女優オノユリの映画の話をしましょうよのお時間です。5月15日土曜日、本日は沖縄本土復帰記念日なんですね。1972(昭和47)年5月15日午前0時にその前の年、1971(昭和46)年にアメリカとの間で締結された沖縄返還協定が翌年発行されました。1945年に終戦を迎えてから27年間もの間、日本であってアメリカだった沖縄の時間はどのようなものだったのでしょうか。せっかくなので、沖縄県の運用しているホームページより少しその流れを抜粋させていただきましょう。

沖縄には日本全体のアメリカ軍専用施設の約70%が集中し、沖縄本島の約15%を占めています。

太平洋戦争中の1945年(昭和20年)4月に沖縄本島に上陸した米軍は、基地をつくり始めました。アメリカは、戦争が終わった後も占領(せんりょう)を続ける中、中華人民共和国(中国)が成立し、また、朝鮮戦争(ちょうせんせんそう)が起きると、沖縄が太平洋の平和を守るための大切な地点になると考えて、基地建設をさらに進めました。そのとき、沖縄の人たちの家や畑などの土地が強制的に取り上げられたりすることもありました。

1952年(昭和27年)、日本は、主権を回復しますが、沖縄は、その後もアメリカが統治することになったため、1972年(昭和47年)に日本に復帰するまでの27年間、アメリカに占領(せんりょう)され、統治される状態が続きました。…

1996年(平成8年)に、…普天間飛行場(ふてんまひこうじょう)をはじめとする11カ所の米軍基地を日本に返すことが約束されました。(SACO合意といいます。)

また、2006年(平成18年)には、約8,000人(2012年(平成24年)には約9,000人に改められました。)の海兵隊を国外に移し、嘉手納飛行場(かでなひこうじょう)より南にある6カ所の米軍基地を返すことなどが約束されました。

2013年(平成25年)4月には、この約束を果たすための計画が発表されましたが、6カ所の米軍基地の大部分は、県内の他の基地に機能を移し、そのほとんどが2022年以降に返されるとされています。

(沖縄県HP: https://www.pref.okinawa.jp/site/kodomo/sugata/begunkichi.html)

戦後27年の沖縄と基地の流れは、現在進行形で脈々と戦争からの歴史が続いているとわかります。沖縄にとっては、歴史ではなく、現在取り組まれている問題そのものです。本土に住むわたしも、沖縄の抱く問題をいっしょに抱き、美しい沖縄の自然、日本だけではなく地球の財産として、考えていく必要があるとおもいました。

さて、本日の映画は、イタリア映画のお話を、しましょうよ。

これからの人生

2020年製作/95分/イタリア
監督:エドアルド・ポンティ監督
原題:La vita davanti a se

The Story

自宅で子守をしているホロコースト経験者が、自分を襲った家なき子を引き取ることに。反発し合う二人だったが、ともに暮らすうちに少しずつ心を開いてゆく。

(Netflix これからの人生

FILMANIA 映画の話をしましょうよ

イタリアを代表する名女優ソフィア・ローレンが主演を務め、高齢のユダヤ人女性と孤児の非行少年の心の交流を描いたヒューマンドラマです。1977年にフランスでも同名タイトルで映画化されたロマン・ギャリーの小説「これからの一生」を原作に、ローレンの息子エドアルド・ポンティ監督がメガホンをとった作品です。

この映画、95分というとても見やすい作品なのですが、とても心に刺さって、ずーっと余韻が漂う、それでもヘヴィーじゃない…ていうなんとも説明が難しい感想を抱いた作品なのです。

Cast

Credited cast:
Sophia LorenMadame Rosa
Ibrahima GueyeMomo
Renato CarpentieriDr. Coen
Iosif Diego PirvuIosif
Massimiliano RossiSpacciatore
Abril ZamoraLola
Babak KarimiHamil

冒頭から登場する孤児の非行少年モモは12歳。セネガルから母親といっしょにイタリアに来たのは3歳の時。孤児になってからは母親がみてもらっていた医者、Dr.コーエンのもとで生活しています。モモにとっては、悪事は彼の生きる手段で、悪事を働いて稼ぐしか彼にとって方法がありません。ある日モモが窃盗を働いた老女は、ソフィア・ローレン演じるマダム・ローザ。売春婦の子どもたちや、行き場のない子供の面倒をみています。彼女いわく、「売春婦は助け合うのよ」Dr.コーエンは、モモを連れて彼女の”隠れ家”と呼ばれる家へ向かい、窃盗品を返し、さらにモモを引き取ってくれないかと頼みこみます。断っても断っても、Dr.コーエンは彼女しかいないと頼み込み、マダム・ローザはしぶしぶ受け入れるのでした。

そこから、老齢のマダム・ローザとモモという12歳の少年、そして周囲の人たちの物語が始まります。

鑑賞していて感じたのが、割と狭い地域の物語で、ドクターコーエンとマダム・ローザの関係性もそうですが、みんな地域の人に知られている存在なんですね。悪事を働いている人が誰なのかも知られているし、彼といっしょのところをみられれば、いくら隠そうとしても悪事を働いていることは検討がついてしまいます。モモくんが悪い事をしているのも、実はバレバレなんだとおもいます。ところが、マダム・ローザは放任するというわけではないのですが、モモくんを知り合いの中で一番良識のある知人ハミルのところへ連れていき、モモ君が退屈しないように働かせてほしいと頼むのです。ついでに、よーく働いたらちょっぴりお小遣いをあげてね。とも。賢いモモ君は、同じタイミングで悪事の世界でどんどん認められて行きます。しかし、マダム・ローザの友人ハミルも、モモくんと目線を合わせ、彼の心に寄り添った思いやりある言葉で「誰かを刺すよりも、言葉は最高の武器」と伝えるのです。反発するモモくんですが、ドクターコーエンとの生活の中で悪事を働き始めたモモくんの孤独だった世界は、マダム・ローザの世界と、悪事の世界と両方に広がっていくのです。

このモモ君が、本当に悪ガキで、だいたいみんなの嫌がることをするんです。なんていうか、普通に、子供ってこういうものだろうな、と等身大の12歳の姿を見ているとおもっているのに悪事は一人前で要領よくやってしまう。そしてうまくいくと、そこら中の子供を束にしたぐらいはちきれんばかりのいい笑顔でダンスを踊って喜ぶ姿に、そしてその身体の小ささに、とても複雑な思いを抱きます。モモ君は、悪事を働くけど、心はまだ幼くて、真っすぐで相手の言葉もちゃんと聞いているんです。良いことも悪いことも。

このエドアルド・ポンティ監督「これからの人生」、先程お話したように作中でマダム・ローザの友人ハミルが「言葉は最高の武器」とモモくんに伝えるとおり、作品に出てくる言葉が刺さる映画です。何度もその言葉たちを拾いたくなるような。

モモくんが幼い頃になくしたお母さんのことを「写真はない でも少し記憶はある ぼくのせいで母さんが転んだときも、おこらなかった 母さんは床に転がったまま、僕を抱いて笑った 大笑いしてた 美しい人だった」唯一のお母さんとの思い出の美しさが、ふてくされた少年の顔をみているわたし達に思い浮かぶんです。

そしてもちろん、映画の主人公であるソフィア・ローレン演じるマダム・ローザ。彼女は、あまり彼女自身のことを語りません。ただ、それでも鑑賞者には彼女の過去がわかるし、いつの間にか彼女の心に寄り添っていく感覚があります。吸い寄せられると言ったほうが正しいかもしれません。同じ理由で映画の登場人物たちも彼女の周りに集まってくるのでしょう。彼女の過去を知ることで、戦争は終わっても、消えないことって沢山あることがわかります。戦争を知らない世代になっても、戦争の残した傷跡はいつまでもつきまとうのです。多くを語らない映画だからこそ、その映像に自分の知っている悲しい歴史を重ね、身悶えるほど苦しい瞬間がありました。そしてそこにいるのは、戦争のことを何も知らない孤独な少年だった時に、彼の言葉に出来ない悲しみや恐怖をわたしたち鑑賞者のほうが慮る(おもんばかる)のでした。

マダム・ローザとモモがどのように心をひらいていくのかは、ぜひエドアルド・ポンティ監督「これからの人生」を鑑賞して、いっしょに体感してみてください。映画に登場する人物たちが、魅力的で、きっとモモくんの心がよく分かると思います。特に素敵なキャスティングだなぁとおもって、心の拠り所にさせてもらっていたのが、マダム・ローザが面倒を観ている子供の一人、バブー、名前の通りまだあまりしゃべれないおこちゃまで、モモくんもよく面倒をみる子のママ、ローラ。マダム・ローザは売春婦の子供の面倒をみるので、ローラも売春婦なんですが、彼女もとはボクサーだったそうで、わたしの心の拠り所だけでなく、実際すごく頼りになるんです。イタリアの古い建物の中だったり商店の中だったりすると、わたしたちと地続きな感じはしませんが、モモくんの生活圏はわたし達の世界と同じ世界だと感じますし、こうしたキャスティングも自然でこれからの映画というか、世界の在るべき姿のひとつなのかな、となんだか嬉しくもありました。95分の作品なので、タイミングがあったら、あまり深く考えないでぜひ、エドアルド・ポンティ監督「これからの人生」に触れてみてください。

オノユリ出演作のお知らせ

この子育てってありですか?愛情の形はひとつじゃない。
長編映画『いずれあなたが知る話』支援プロジェクト

「いずれあなたが知る話」2021年6月10日までクラウドファンディングサイトにて支援を募っております。物語は歪んだ愛情と行為がぶつかるノワールサスペンス。古澤健(ふるさわたけし)監督作品。主演大山大さんと小原徳子(こはらのりこ)さん、小原さんは今作で脚本家としてもデビューされています。たくさんの困難を乗り越え、劇場公開のためにクラウドファンディングと言う選択を歩み始めた作品です。ご支援いただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

今日は、沖縄本土復帰記念日ということで、戦争の残したものについて考える日になりました。エドアルド・ポンティ監督「これからの人生」も戦争の残した記憶の一つを描いています。わたしたちは、二度と戦争の時代へ突入するわけには行きません。わたしたちの次の世代も、その後も。そのためには、心に記憶を持ち、そこに付随するかなしみもしっかり幼少期から抱きつづける教育が今後も失われないように願うばかりです。わたしオノユリ自身も、機会を与えていただけるのならそういった作品に出演し続けます。ぜひ機会をください。よろしくお願いいたします。

お芝居や映画の担う重要な意味を改めて感じたところで、本日はお開きです。また来週映画の話をしましょうね。素敵な日曜日をお過ごしください。

オノユリでした。