コエボンラジオをお聴きのみなさん、こんばんは。2月12日(土)の女優オノユリの映画の話をしましょうよのお時間です。いよいよ、ラスト3回放送のカウントダウンスタートです。とはいえ、やることは変わりません。わたしはマイペースに、好きな映画のお話を、今日もするだけ。一緒にお楽しみいただけたら、こんなに幸せなことはないです。では今日も、映画の話をしましょうよ。

THE POWER OF THE DOG

2021年製作/128分/G/イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・アメリカ合作
監督:ジェーン・カンピオン監督
原題:The Power of the Dog

アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは現地時間2月8日、第94回アカデミー賞のノミネート作品を発表いたしました。最多11部門12ノミネートを果たしたのは、ジェーン・カンピオン監督とベネディクト・カンバーバッチがタッグを組んだNetflix映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」。作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞(ジェシー・プレモンスコディ・スミット=マクフィー)、助演女優賞という主要部門のほか、脚色賞、美術賞、撮影賞、編集賞、音響賞、作曲賞に名を連ねています。

わたしのお芝居の先生のお一人が、絶賛しているのをSNSでお見かけしまして、こりゃみなきゃ!と大慌てで鑑賞いたしました(笑)何この理由(笑)

STORY

1920年代のアメリカ・モンタナ州を舞台に、無慈悲な牧場主と彼を取り巻く人々との緊迫した関係を描いた人間ドラマ。大牧場主のフィル・バーバンクと弟ジョージの兄弟は、地元の未亡人ローズと出会う。ジョージはローズの心を慰め、やがて彼女と結婚して家に迎え入れる。そのことをよく思わないフィルは、2人やローズの連れ子のピーターに対して冷酷な仕打ちをする。しかし、そんなフィルの態度にも次第に変化が生じる。カンバーバッチがフィル、実生活でもカップルのキルステン・ダンストとジェシー・プレモンスがローズとジョージをそれぞれ演じ、ピーター役はコディ・スミット=マクフィーが務める。

映画.com

CAST&STAFF

監督が、「ピアノ・レッスン」で女性監督として初のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したジェーン・カンピオン監督なのを、知らずに鑑賞してたのですが、あーーーーそうなのか!!と。後出しジャンケン上等でお話しますと、鑑賞するまで、ベネディクト・カンバーバッチの作品ですし、観よう観よう…と思いつつなんとなくためらわれたのが、カンバーバッチがカウボーイ姿だったからなんですよ。映画鑑賞にいたるまでのハードルが一段あるような気がしてしまて。映画に対して先入観なく観られる自分がいるかな?と。でも、カンバーバッチの魅力に落ちて(まぁ、実際には先生の一言に背中どつかれたわけですが)鑑賞したわけです。実際はカウボーイであったり、時代背景であったりに囚われず、すごく楽しめました。確かに思い返してみるとそれって「ピアノ・レッスン」に通ずるものがあるなぁと。あの、映像と音響のバランスかな?それがどちらも印象的な映画だとおもいます。

キャスティングが、面白い!絶妙!

Benedict Cumberbatch

Benedict Cumberbatch ベネディクト・カンバーバッチ as Phil Burbank

Kirsten Dunst

Kirsten Dunst キルステン・ダンスト as Rose Gordon

Jesse Plemons

Jesse Plemons ジェシー・プレモンス as George Burbank

Kodi Smit-McPhee

Kodi Smit-McPhee コディ・スミット=マクフィー as Peter Gordon

ベネディクト・カンバーバッチの作品は、シャーロックで彼を知ってから、凄すぎる!もっと彼の作品を観たい!!と常に新しい作品で彼の魅力と出会わせてもらっている、大好きなスターです。もう、不動のシャーロック愛。

今回カンバーバッチの役柄は、ハンサムですがとても厳格な大牧場主の兄弟のお兄さん、フィル・バーバンク。その土地と、過去に捕らわれているカウボーイです。1人、川で泳ぎ、泥を体に塗りつけ、お風呂にあまり入りません。弟、ジョージ・バーバンクや、牧場で働く者たち以外には、とても嫌な態度を取り笑いものにするような人です。

弟、ジョージ・バーバンクを演じるのは、ジェシー・プレモンス。ぽっちゃりな外見でフィルにからかわれたりしますが、物静かで、心の優しさがにじみ出ているような雰囲気で、とても魅力的に感じます。ジョージが恋に落ちる様は、観ていてとても満たされました。

恋に落ちる相手はキルステン・ダンスト演じるローズ・ゴードン。キター!来ましたよ、キルステン・ダンスト!彼女のことは「Interview with the Vampire」の美しい子役時、「ヴァージン・スーサイズ」で独特の存在感を確立して、わたしの愛するトビー・マグワイアの「スパイダーマン」シリーズのMJ役で…ととにかくずっと羨望の眼差しで観てきた女優さんです。なんて言いつつ、「The Power of the Dog」に出演しているのを知りませんでした!なんて嬉しい誤算!しかも、キルステン・ダンスト演じるローズとジョージ・バーバンクは作中で結婚するのですが、実生活でもパートナーなんです。キルステン・ダンストのパートナーってどんな人なんだろう??ってふと映画をみながらよぎっていたので、びっくりしました!この二人のシーンが、すごく素敵で、なんてこと無い一瞬なんですが、フィルの言葉に傷つき落ち込んでいるローズの震える肩に、ほんの少し触れるか触れないかするジョージの指先。もう、この瞬間がどうしてこんなに美しいのだろう・・・というほど美しいのです。そこだけ切り取ってポスターにしても良いくらい美しい。おもえば、「ピアノ・レッスン」もそんな美しいシーンの連続でしたよね。

そして、ローズの息子、ピーター・ゴードンを演じるのはコディ・スミット=マクフィー。今回、アカデミー賞の助演男優賞にノミネート。第79回ゴールデングローブ賞では、最優秀助演男優賞(コディ・スミット=マクフィー)を獲得(かくとく)しています。いや、すごいです。なに、この人…。と言う凄さ。ピーターはとてもとても繊細な美しい息子なんですよ。

カンバーバッチのフィル、キルステン・ダンストのローズ、ジェシー・プレモンスのジョージ、コディ・スミット=マクフィーのピーターと、4人が、物語の中心人物となるのですが、この4名の個性が素晴らしい。このキャスティングは本当にあっぱれです。

なんだろう?こんなこと言って、「お前それは内容わかってないんじゃ・・・?」と思われてしまうかもしれませんが、なによりもこのキャスティングが素晴らしいなと思ったのが、人間の描かれ方なんです。それぞれに、なにを考えているのか、どういう状況なのか、よくわからないんです。これ、わたしの言いたいこと伝わるかな…(笑)結局の所、わたしたちって、日々他の人のことってそんなにわからなくないですか?こうなのかな?って想像することしか出来ないですよね。それがわかりやすい人もいれば、わかりにくい人もいます。表情に出にくい人だったら、黙ってしまうと怒ってるのかな?なんて。でも本当は自分の言ったさりげないジョークがちょっと恥ずかしくて笑いを噛み殺しているところだったり、全然見当違いなんてこともあるじゃないですか。なんていうか、そういった、鑑賞者とすこし距離をおいたところにこの4人が存在している感じがありました。心の内が、それぞれのバランスでそれぞれの心の中にあって、あまり表面に出てきません。わかりやすく心の内がにじみ出てきているのが、先程わたしが興奮して「切り取ってポスターにしてもいい」と言ったあのシーン。恋愛感情というのは、他者もなんとなく嗅ぎ取りやすいものではないですか?こうした感情というか、心のうちを隠しているというわけではなく鑑賞者に伝えない、というお芝居って、もうハイレベルすぎて、びっくりですよ。こんなお芝居があるのか!!!!と。どう作り上げたものなのか、ちょっと想像もできない作品でした。

そこで、インタビュー記事を読んでみるとカンバーバッチと監督がとっても興味深い役作りをされていたのでご紹介します。

この役のために初めて夢の分析の専門家に会ったとのこと。カンピオン(監督)に勧められたそうで、「その女性は、僕らの潜在意識の中にあるものを導き出してくれるんだ。自分で気づかなかったそれらのことを、役に共感するために使うんだよ。だけど、僕の夢に比べてジェーンの夢は素敵なんだよね(笑)。僕は『家の鍵を忘れた! しまった!』なんて夢を見るのに、ジェーンは美しい花の夢を見ていたりする(笑)。とにかく、これほどまでに監督と一緒にひとつの役を作っていったのは初めてだった。」

パワー・オブ・ザ・ドッグ」カンバーバッチらがコロナ禍での製作で体得した連帯感(映画.com)

また、キルステン・ダンストのほうは

「ローズは古風な女性。自分に何が起きているのかを伝えることで夫に迷惑をかけたくないと思っている。彼女はひたすら感情を抑え込む。その結果、(アルコールに頼るようになって、)家にこもってしまうの。それがさらに彼女を孤独にする。私はその心境を理解する必要があった。今の私とローズは全然違うところにいるから、昔のことを思い出して使うこともしたわ。自分自身のことが嫌でたまらなかった頃に向き合うのよ。役を演じる時はいつもそうだけれど、今回も心理カウンセリングを受けるような体験になったわね」

パワー・オブ・ザ・ドッグ」カンバーバッチらがコロナ禍での製作で体得した連帯感(映画.com)

と言っていて、かなり精神的に追い込んでの撮影だったことが伝わってきます。

新しい表現方法や役に対する模索方法を知って、わたしとしては大収穫の映画でした。どれだけ名声が世界中に轟くスターとなっても、俳優とは健気な生き物なのだな、と知り、わたしの中の役者の魂が瞬きました。もちろん、物語もとてもおもしろいです。先ほどお話したように、人の心の動きがわかりにくくもある作品なので、みなさんが鑑賞してどのような感想を抱かれるのかとても興味があります。教えていただけたら嬉しいです。

ジェーン・カンピオン監督、The Power of the DOG のお話をいたしました。

それではまた来週、映画の話をしましょうね。

オノユリでした。